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沈下被害(不同沈下障害)編
(1)建設工事による建物の沈下被害はなぜ起こるのか?
(2)住宅等の建物の不同沈下の原因のいろいろ
(3)不同沈下のパターン
(4)住宅の不同沈下障害の損傷形態
(5)沈下傾斜とその程度
(6)沈下測定について
(7)基礎のひび割れ
(8)基礎のひび割れが何故いけないのか?
(9)基礎のひび割れの評価
(1)建設工事による建物の沈下傷害はなぜ起こるのか?

地盤沈下による建物の壁や建具等の損傷(不具合)は、下図のような経緯で損傷となって表れます。

建物には経年劣化など、様々な原因でひび割れや隙間等の損傷が生ずるので、地盤沈下があれば何でもこれによる損害であるわけではありません。

沈下障害と判断するのは、損傷の発生がこのような経緯を経て合理的に説明できる必要があります。

特にポイントとなるのは

「地盤の不同沈下」の原因が工事に起因する場合において、「基礎のひびわれ」と「躯体の変形」が重要で、これらが生じていない場合、建物が沈下傾斜しても剛体傾斜で損傷は生じませんので、その場合は工事による損傷とは考えられません。

1.地盤が不同沈下する
図-1 建設工事による沈下被害の発生経緯
2.基礎が不同沈下する
3.基礎が損傷(ひび割れ)して変形が生ずる
4.柱・梁等の軸組構造部が変形する
5.壁や建具などに不具合が生ずる
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(2)住宅等の建物の不同沈下原因のいろいろ

事業損失として扱う以外にも、住宅等の建物が不同沈下する原因は様々です。住宅の沈下原因を大別すると以下の通りです。 

  1.不均一な軟弱層が堆積する地盤(a)

  2.建物荷重が極端に偏っている場合(b)

  3.擁壁や土留の変状や倒壊等(c)(d)

  4.地盤改良の施工不良(e)(f)

  5.軟弱地盤上の造成盛土や不適切な盛土(g)(h)

  6.建設工事等の掘削に伴う沈下(j)(k)

 

住宅等の不同沈下の原因
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(3)不同沈下のパターン

不同沈下障害を考える場合、ます建物の沈下パターンを識別する事が重要です。

住宅の不同沈下パターンには以下の「変形傾斜」と「剛体傾斜」とがあります。この沈下パターンによって、障害(不具合)内容は全く異なります。

 

【変形傾斜】 図-8
不同沈下により基礎にひび割れが生じ建物躯体に変形が生じて沈下傾斜するもので、内外壁の亀裂や建具の建付不良等の具体的な損傷を伴います。ひび割れや変形等による構造耐力上の問題と壁や建具等の障害程度、また、床の傾斜等による使用性や機能性が問題となります。

【剛体傾斜】 図-9

損傷等が生じないで建物が一体となり沈下傾斜する場合で、通常起こりうる傾斜程度では構造上問題となる事は無く、床の傾斜等に使用性や機能性が問題となります。

障害(被害)の程度は損傷等の現象面の事象と共に、基礎や床面の水平測定結果からその程度を知る事が出来ます。

変形傾斜の場合は構造的に問題となる変形角と機能面の問題となる傾斜角、剛体傾斜の場合は機能性に影響を与える傾斜角が問題となります。これらから障害の程度を評価できます。
沈下傾斜とその程度

図-8 変形傾斜 図-9 剛体傾斜
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(4)住宅の不同沈下障害の損傷形態
不同沈下による代表的な損傷は以下の通りです。

これは「変形傾斜」による損傷で、地盤が沈下することにより地盤に直接設置されたものの損傷や、沈下により軸組みが変形して損傷が生ずる様子が良くわかります。内壁亀裂、タイルの損傷等は思いのほか発生率が少ないようです。

建物の損傷に関する詳しい情報「近接掘削工事に起因する戸建住宅の基礎の障害について」
ユーザーサイト(論文集)をご覧下さい。(利用者登録が必要です)


不同沈下による損傷ベスト10
順位 損 傷 形 態
1 ブロック塀等の損傷
2 建物の傾斜及び部分的な沈下
3 コンクリート舗床等の損傷
4 建具の建付不良又は開閉不良
5 外壁(左官)の亀裂
6 基礎の沈下又は亀裂
7 内壁の散りきれ
8 床束等の沈下による床の緩み
9 内部土間コンクリートの損傷
10 内壁及び天井(左官)の亀裂または崩落
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(5)沈下傾斜とその程度

沈下量の測定結果から概ねの障害程度を判断する事ができます。

沈下障害である場合は、測定結果と障害程度が一致している事を確認する必要があります。また、沈下傾斜とその程度は「変形傾斜」と「剛体傾斜」を個別に考える必要があります。

【変形傾斜】
木造建築物の変形角θ2と損傷程度の関係 
変形角 損傷程度 区分

2/1000 rad

損傷が明らかでない範囲 1

2〜3/1000 rad

建付と内外壁の損傷が5割を超え損傷発生が目立つ.内外壁の損傷は0.5o程度,建付隙間3o程度,木工仕口隙間2o以下 2

3〜5/1000 rad

損傷程度が著しくなる.基礎亀裂の拡大傾向が見られ,無筋基礎,内外壁の損傷が0.5o程度,建付隙間5o程度,木工仕口隙間が2oを超える. 3
5〜8/1000 rad 多くの損傷発生が5割を超え顕著.有筋基礎でも多くの建物で0.5oを超える亀裂,内外壁の損傷は1o,建付隙間は10oを超え,木工仕口隙間4o程度以上となる. 4
8〜12/1000 rad 損傷程度はさらに著しくなるが損傷発生率は頭打ち塑性的傾向を示す.有筋基礎でも1o程度の亀裂,内外壁の損傷2o程度,建付隙間15o程度,木工仕口隙間5o程度程度となる 5
日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」より
【剛体傾斜】
傾斜角と機能的な障害程度の関係
傾斜角 障害程度 区分
 3/1000rad未満

測定誤差や施工誤差を含む範囲

品確法技術的基準レベル-1相当

1

4/1000rad

不具合が見られる

2

5/1000rad

不同沈下を意識する 

水はけが悪くなる

6/1000rad

品確法技術的基準レベル-3相当。

不同沈下を強く意識し申し立てが急増する.

3

7/1000rad

建具が自然に動くのが顕著に見られる

8/1000rad

殆どの建物で建具が自然に動く

4

15/1000rad

配水管の逆勾配

17/1000rad

生理的な限界値

5

日本建築学会「小規模建築物基礎設計指針」より
【建物の構造部の矯正が必要となるレベル】
建物の構造部矯正(沈下修正)の必要性の判断は、沈下傾斜等の測定結果と共に、不具合状況等を総合的に判断するべきですが、変形や傾斜角については以下の値を許容レベルと考えます。許容レベルは建物の仕様や経年程度、使用状況等により上限〜下限の値を弾力的に考慮すべきものと思われます。
 
小規模建築物の傾斜角と変形角の限界値
  下限 標準 上限
傾斜角 4/1000rad  6〜8/1000rad
変形角θ2 5/1000rad  5/1000rad 8/1000rad

下限:一部(概ね2割程度)の建物で著しい不具合が見られるレベル

標準:多くの(5割を超える程度)の建物で著しい不具合が見られるレベル

上限:大部分の(概ね7割程度)の建物で著しい不具合が見られるレベル


「沈下修正の要否判定」に関する詳しい情報→ユーザーサイト(利用者登録が必要です)
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(6)沈下測定について
沈下測定と言うと一般的には機械レベルによる水準測量を行いますが、当所では以下の理由から水盛管による内部の床面での測定を勧めます。
【水盛管測定の利点】
  • 特に重要なのは「現状の傾斜程度」でありレベルによる外部での測定では十分に把握できない。
  • 傾斜程度が実質的に問題となるのは、内部床面での傾斜である。
  • 問題となるのは絶対沈下量ではなく不同沈下量である。
  • 傾斜角と変形角を把握するのに都合が良い。
レベルと水盛管を併用するのが理想的ですが、どちらか一方を行う場合では水盛管による測定を行いましょう。
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(7)基礎のひび割れ
基礎や壁に入る亀裂をクラックとかひび割れと言いますが、どれも基本的には同じです。
建築では主にひび割れに統一しているようです。(事業損失業界では亀裂とするケースが多いようです)ここではひび割れと表記する事にします。
これまでのように、
不同沈下障害で損傷が発生するのは変形傾斜した場合で、この時には必ず基礎のひび割れが生じています。障害程度は基礎のひび割れ程度によるので、沈下障害を調べるには基礎のひび割れを調査する事が重要です。
また、基礎コンクリートは、その他にも下記のような原因によってひび割れは生じます。特にコンクリートは打設後、硬化と伴に収縮するので、これによる収縮クラックの発生はコンクリートの宿命とも言えます。ある程度の収縮クラックは避けられないのですが、これも程度問題で、程度が悪ければ問題となります。
【基礎のひび割れの原因】
 ・設計施工に起因する (配筋不足による剛性不足・コンクリートの被り圧が少ない等)

 ・コンクリートの材質に起因するもの (水セメント比が高い等)

 ・打設後の養生不良によるもの (寒冷期の打設・型枠の早期撤去等)

 ・外的要因による (養生中の振動や地震外力等)

 ・不同沈下など応力集中による変形

 ・経年劣化による耐力低下

 ・配筋不足による剛性不足

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(8)基礎のひび割れが何故いけないのか?
コンクリートにひび割れが入ると、チーズを割るように、すぐちぎれてしまうように思う人もいますが、そうでは有りません。鉄筋コンクリートは一般に、引張力を鉄筋が負担し、圧縮力をコンクリート</b>が負担します。不同沈下時の基礎は、上側の引張力に対して鉄筋が頑張っているのです。だから鉄筋コンクリート基礎は不同沈下に有利なのです。鉄筋コンクリートの基礎でも、コンクリートにひび割れが生ずるとこんな問題があります。
【鉄筋コンクリートがひび割れる事の問題点】
 1.ひび割れから水分が浸入し鉄筋を錆びさせる
 2.ひび割れから炭酸ガスが浸入しコンクリートの中性化を促進させる→鉄筋が錆びやすい
 3.ひび割れが進むと鉄筋の拘束力が低下する。
 4.コンクリート強度の低下
【ひび割れによる悪循環】

ひび割れにより鉄筋が錆びる

        ↓

錆びて膨張する事によりコンクリートを押し広げ

        ↓

さらにひび割れしてまた鉄筋が錆びる

        ↓

そして急激に強度低下する

ひび割れに関しては程度問題ですか、エポキシ樹脂などでひび割れ箇所を一体化させ、水分や炭酸ガスの浸入を防ぐ事が有効的です。


※基礎の補修に関する情報→「戸建住宅基礎の修復方法の現状について」
ユーザーサイト(論文集)をご覧下さい。(利用者登録が必要です)

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(9)基礎のひび割れの評価
ひび割れの程度について評価する場合、まず「ひび割れが進行していない」ことが大前提です。地盤沈下が生じている場合、粘性土地盤では圧密沈下が生じ長期間にわたって沈下が進行する場合がありますから、注意を要します。ひび割れ測定を追跡調査(出来れば半年以上)して、ひび割れの進行が無い事を確認しましょう。ひび割れの程度は主にその幅によって下表のように評価できます。
ひび割れ幅とその程度
 0.2o未満  特に支障が生じないレベル
 0.2o  漏水を許せない箇所の許容レベル
 0.3o以上  一般部で何らかの対応が必要なレベル
 0.5o以上  問題となるレベル
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